三橋美穂(快眠セラピスト・睡眠環境プランナー)
全国での講演活動のほか、寝具や快眠グッズのプロデュースも手がける。著書に『眠りのさじ加減 65歳からのやさしい睡眠法』(青志社)ほか多数。
わかりやすく実践的なアドバイスには定評があり、NHK「あさイチ」TBS「ひるおび!」日本テレビ「ヒルナンデス!」など、テレビ番組にも出演多数。
「睡眠は8時間必要です。」
一度は耳にしたことがある言葉ではないでしょうか。そのため、「昨日は6時間しか眠れなかった」「今日は8時間確保できそうにない」と、不安になる人も少なくありません。
しかし、本当に誰もが8時間眠らなければ健康を維持できないのでしょうか。
結論から言えば、答えは「いいえ」です。
睡眠時間には大きな個人差があります。アメリカ睡眠医学会(AASM)と睡眠研究学会(SRS)は、成人では7時間以上の睡眠を推奨していますが、これは「すべての人に8時間必要」という意味ではありません。また、米国睡眠財団(National Sleep Foundation)は、成人の適切な睡眠時間は7~9時間としています。つまり、「8時間」はあくまでも目安の一つであり、万人に当てはまる絶対的な基準ではないのです。
なぜ個人差があるのでしょうか。
その理由の一つは遺伝です。生まれつき短い睡眠でも十分な人もいれば、8時間以上眠らないと本来の力を発揮できない人もいます。また、年齢によっても必要な睡眠時間は変化します。赤ちゃんや子どもは長時間の睡眠が必要ですが、高齢になると睡眠時間はやや短くなる傾向があります。
もちろん、「短くても平気」という人でも、慢性的な睡眠不足は健康への悪影響が指摘されています。睡眠不足が続くと、高血圧、糖尿病、肥満、心血管疾患、うつ病などのリスクが高まることが、多くの研究で報告されています。睡眠は脳や体を休ませるだけではなく、免疫機能の維持やホルモン分泌、記憶の整理など、生命活動に欠かせない役割を担っているからです。
一方で、「とにかく8時間眠れば安心」というわけでもありません。
毎日8時間眠っているにもかかわらず、朝起きても疲れが取れない、昼間に強い眠気がある、集中力が続かないという場合は、睡眠の「量」ではなく「質」に問題がある可能性があります。睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害などの睡眠障害が隠れていることもありますし、睡眠時間が長すぎることで質を低下させている可能性があります。
つまり、大切なのは睡眠時間という数字だけではなく、「睡眠によって十分に回復できているか」ということです。
不眠で悩む人のお話を伺っていると、「何としても8時間眠らなければ」と強く思い込んでいる方が少なくありません。その結果、「あと1時間しか眠れない」「早く寝なければ」と時計を気にし続け、かえって眠れなくなってしまうことがあります。
このように、「眠ろう」と努力しすぎることを睡眠努力と呼びます。実は、眠ろうと意識するほど脳は緊張し、眠りは遠ざかってしまいます。不眠症の認知行動療法でも、「必要以上に睡眠時間へこだわらないこと」は重要なポイントの一つです。
では、自分に合った睡眠時間はどう判断すればよいのでしょうか。
目安はとてもシンプルです。朝ほぼ決まった時間に無理なく起きられ、日中に強い眠気がなく、仕事や家事、趣味などを元気にこなせているなら、その睡眠時間はあなたに合っていると考えられます。逆に、休日になると何時間でも眠れてしまう、平日に居眠りが多いという場合は、睡眠不足が蓄積しているサインかもしれません。
睡眠で目指すべきなのは、「8時間」という数字ではありません。毎日できるだけ一定の時刻に寝起きし、自分が日中を快適に過ごせる睡眠を確保することです。
健康な睡眠とは、「長く眠ること」ではなく、「自分に必要なだけ眠れていること」。
もしあなたが7時間の睡眠で毎日元気に過ごせているなら、それは決して「睡眠不足」ではありません。
数字に振り回されるのではなく、自分自身の体の声に耳を傾けること。それこそが、健康的な睡眠への第一歩なのです。
全国での講演活動のほか、寝具や快眠グッズのプロデュースも手がける。著書に『眠りのさじ加減 65歳からのやさしい睡眠法』(青志社)ほか多数。
わかりやすく実践的なアドバイスには定評があり、NHK「あさイチ」TBS「ひるおび!」日本テレビ「ヒルナンデス!」など、テレビ番組にも出演多数。